豊かな山岳自然をめざして政府に要望を提出
林野庁・環境省と対政府交渉
全国連盟自然保護委員長 後藤功一
5月14日、全国連盟は、7年ぶりに林野・環境両省庁との政府交渉をおこない、守屋益男会長、斉藤義孝理事長、野口信彦副理事長、川島高志事務局長と、自然保護委員会の4人、北海道・道央、大阪、奈良から各1人の11人が参加した。

要望項目の中心には、進行中の労山の自然保護憲章基本構想づくりに必要な事項をすえた。そのため、基本構想づくりに必要な各分野の補強と、それぞれの分野での政府の政策の現状と今後をできるだけ正確に知ることを目標にした。従って、林野庁に出した「木質バイオマス」ガス化森林発電所などのように、森林総合研究所での最終研究段階の研究項目も含めて、両省庁の研究機関における今後の山岳自然の見通しに関する要望もかなり出した。

同時に、山岳団体として両省庁と協力可能な項目として、林野庁の「国民の森」参加事業や環境省ホームページの「四季いきもの前線調査」との連携などを、今回あえて加えて、可能な分野での共同協力を行う意志を明確に表明した。

また、山岳自然保護の破壊に結びつく砂防ダム,旧称大規模林道(現・緑資源林道)などは、撤去・中止を求めただけでなく、具体的実例を地方からの参加者が明示して、具体的対応をせまった。

今回の両省庁との政府交渉の具体的な内容は次のとおりだ(要求項目は、全国連盟のホームページに掲載http://www.jwaf.jp/upload/news/38.doc)。

自然保護憲章制定のための
必要事項を解明

林野庁への主要要望項目は、次のとおり。まず、治山ダム(国土交通省は砂防ダム)の撤去と治山ダムの全国統計資料を求めた。

河川の上流部で水を止めることで河床の低下が生じるなど、山岳自然に対する弊害を林野庁は全く理解しておらず、治山は単純に森林管理だという認識。治山ダムは、森林の一部として残置するので統計はとっていないと無責任な回答も出た。実情は、補助金で各県にまかせているので不明ということのようだ。この結果、全国の山岳地帯に、把握できない無数の治山ダムが増殖している実態だけが判明した。

次に、ムダな公共事業の象徴といわれてきた旧称大規模林道については、さすがに再評価システムだけは導入していた。

今後予定の20区間のうち、7区間(40%)は中止、残りの13区間も一部取止めや、幅員の縮小をする方向。また、現行の旧称大規模林道に対しても、5年ごとの再評価などの事業評価システムを導入するという。

しかし、現地を見ないで決めてしまう今の再評価方法や、「外部委嘱」と言いながら、実質的に林野庁長官が任命するという再評価委員の選出方法は止めるべきだ。このような不十分な改革だから、旧称大規模林道の建設は全く止まっていないと、北海道から参加した会員からは、林野庁への厳しい批判の声が出た。

最後に、林野庁に対して、労山は地域振興も重視していると主張。旧称大規模林道の建設は、地域振興に全くならないことは明らかであり、全国の主要な森林組合が重視しているバイオマスガス化森林発電所計画を促進すべきだと要望した。これに対して、林野庁は、当面はガス化の技術改良が遅れているので、蒸気化発電所が先行するという回答。22世紀のエネルギーは、バイオマスのガス化になるといわれている。山村地帯に再生可能な新しい産業ができ、人口が増えればふるさとの山々の多くはよみがえる。

環境庁への主要要望項目は、次のとおり。まず、地球温暖化の山岳自然にあたえる影響を質したところ、ブナ林の後退と野生動物の大量越冬、およびびシベリアの温暖化による降水量の変化を予測していると回答。

山岳整備事業はつぎのとおりだ。山小屋のトイレの維持管理については、チップ制の導入の促進とのみ回答。携帯トイレは、持ち帰りが原則だが、回収施設設置は地元との検討が必要と回答。百名山歩道事業は、終了11コース、進行13コース。今後、平成17年までは継続する。

次に、酸性雨モリタリング調査について。日本での平均値はPH4.8。中国からの影響で、日本海側で、今後、酸性雨の影響が顕著となる。

尾瀬至仏山の利用調整区域問題については、検討中とのみ回答。

その他、自然再生法について。自然再生協議会を釧路、多摩川源流など、全国4ヵ所に設置。大台ケ原・大峰山脈は総合的な形で取り組む。尾瀬電気自動車導入問題については、尾瀬の利用の仕方として慎重に議論すべきと、批判的見解だった。

全国各地の山岳自然保護運動の
要望を解明

北海道・道央地区連盟は、「旧称大規模林道」(以上、林野庁)「アポイ岳」「日高の幌尻岳の山のトイレ」(環境省)について要望を提出。

旧称大規模林道については、北海道の現行路線の中での、今年度の期中評価(見直し)の対象が明らかになった。シベリアの温暖化で、ハイマツがヒダカソウなどを侵食しているアポイ岳の件は、生態系の予測の強化で今後は協力を示唆。日高の幌尻岳の山のトイレについては、秘境域のオーバーユースの深刻さに環境省は驚き、北海道の管理であるが「道が国に要求を上げれば、補助することが可能。こちらからも道に通知する」と回答。

奈良県連盟は、大峰山脈で6年間継続している立ち枯れ調査の写真・データを示して説明。環境省も「酸性雨との関係を含めて検討したい」と関係を認めた。

大阪府連盟は、4年間、山岳地域を含め1800カ所で実施してきたNO2の測定データにもとづき、奈良の大峰山脈・大台ケ原の立ち枯れへの影響を指摘。

徳島県連盟からは、剣山の環境整備について、兵庫県連盟からも家電および容器リサイクル法等についての要望があり、それぞれ前進的な回答を環境省から得た。


今回の政府交渉では、林野庁は課長補佐が5人。環境省は、全ての要望に回答するため担当者14人が出席した。交渉時間も、林野庁が10分延長、環境省は40分延長。「今後も引き続きこのような機会を持ちたい。また、各部局とも個別の課題でご相談に伺いたい。今回の交渉はそういう機会になり意義があった」と斉藤理事長が政府交渉の席で、閉会の辞を両省庁それぞれに述べた。今回の政府交渉は、今後の交渉の道筋をつくった取り組みであったとも言える。


[写真キャプション]
環境省で酸性雨の影響を訴える大阪の会員。

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