北海道山のトイレを考える会第5回フォーラムの[報告]

山小屋のトイレ問題を考える---どんなトイレをつくったらいいか

坂口利貞(道央地区連盟自然保護委員長)

労山もその一員として活動している「北海道山のトイレを考える会」の第5回フォーラムが、2月7日に札幌コンベンションセンターで開かれた。今回は「山小屋のトイレを考える」がテーマ。道内の山小屋関係者5人の方々をゲストスピーカーに迎えて、山小屋が抱えている問題を発表していただいた。また、道自然環境課の担当者にも、バイオトイレの試験運用結果を発表していただき、参加者の意見交換のあと、現在トイレが設置されていない小屋にどのようなトイレを設置したらよいか、投票もおこなわれた。6つの小屋のトイレ事情、バイオトイレの試験結果について、当日報告された要旨は次のようなものだった。


[羊蹄山避難小屋におけるし尿処理]
便槽への異物投棄を減らせばコストも減る

報告者・小室一也氏(北海道後志支庁環境生活課) 羊蹄山(1893メートル)は容姿端麗な成層火山で「えぞ富士」ともよばれ、北海道を代表する山のひとつだ。小屋は1670メートルにあって、2階建で収容人員100人、羊蹄山を登る年間登山者1万人あまりの1割(03年で1231人)が利用している。6月上旬から10月上旬まで管理人が常駐している。

トイレについては、水分は地下浸透式で、残った固形分は自然公園の区域外に搬出してきた。昨年、1972年に小屋を建設して以来はじめて、ヘリコプターで搬出した。2穴のトイレ(ひとつの便槽に男女別のトイレがある)で屎尿は約7トン、水分を含めてタンク6基だったが、異物が40リットルのゴミ袋8個とバケツ4杯分も出たうえに、何層にもなって凝結していたため、処理には大量の水が必要だった。

費用が800万円かかったが、異物を減量すれば、コストも削減できる。ゴミの持ち帰りをよびかけ、協力を得ることが屎尿処理対策にも結びつこう。

[万計山荘のトイレ管理について]
登山者管理の小屋で行政に援助を求める

報告者・小笠原実孝氏(札幌中央勤労者山岳会、万計山荘友の会) 万計山荘は、年間1万人を超す登山者が訪れる札幌近郊の山々の中でも、人気の空沼岳(1249メートル)の中間、万計沼の辺にある。もともとは営林署が39年前に建てた小屋だった。ところが、管理ができないまま崩壊寸前となり、トイレもゴミ箱同然---そこで、95年に労山会員が中心になって「友の会」をつくり、維持管理をはじめた。

3年前には、募金運動をして山荘を修復し、そのときに、浸透式だったトイレも強化プラスチックの便槽に替えた。定期的にEM菌を散布して臭いを消しているので、利用者には好評だ。また、ゴミ箱を設置してティッシュをその中に入れてもらうようにしている。

しかし、便槽は1年で満杯になることが分かり、札幌市にバキューム車を依頼したところ、「そんな山奥にまで行けない」と断られる。再三の申し入れで、森林管理署と市、「友の会」とで話し合い、どうにか林道を整備して汲み取りにこぎつけた。ところが、こんどは費用の問題が持ち上がっている。市に免除を要請したが断られ、3万円は「友の会」で負担している。

[大雪山白雲岳避難小屋のトイレ]
トイレを利用しない登山者は相変わらず多い

報告者・片山徹氏(白雲岳避難小屋管理人) 小屋に併設されたトイレまでは、いまではロープで通路を明示しているが、以前は通路を探すために無数の踏跡がつくられていた。また、テント場では、トイレを利用せずに敷地内での用足しが多い。とくに、トイレが混雑する早朝の6時から7時半の間は、野外で用を足す男性が多い。小屋には携帯トイレも常備しているが、使われていない。

昨年の6月末から9月末の期間、小屋の利用者は宿泊者で1308人で、トイレ利用数は7714回(カウンターを置いて利用者に押してもらう)。使用済みティッシュの持ち帰りを原則にしてからは、便槽水位が低下しているが、相変わらずゴミの投棄が多いのが現状だ。2穴トイレは貯留式で、汲み取りをしてヘリコプターで運ぶという従来の方法だけでは限界があり、これからはコストに見合う効果的な新しい方法も考えていかなければならない。

[美瑛富士避難小屋周辺の状況]
ウンチ街道の下流には汚染された沢水も

報告者・内藤美佐雄氏(美瑛山岳会) 「十勝連峰トイレ事情」として、後掲の十勝岳避難小屋とともに報告する。美瑛富士避難小屋は、96年に美瑛町が建設した軽量鉄骨造平屋建の小屋で、計画時にトイレの併設も検討されたが、屎尿搬出を主とする維持管理経費が問題になり、設置は見送られた。登山者数は600人で、約半分が小屋泊まりとなっているが、他の登山口からの入山者も含めて利用者は約500人と推定されている。定員は15人前後なので、週末はテントを利用する登山者も多い。登山口から小屋まで6キロ近く(約3時間半)あり、日帰り登山者も休憩時に小屋周辺で用を足すことを考えれば、かなりの屎尿が累積されているのが実態である。

小屋周辺は、トイレに向う踏跡が数条できて、登山道沿いにティッシュが点々としている。否応なく登山者の目に入ることから「ウンチ街道」と称されている。小屋の300メートル下の沢水を調査したところ、亜硝酸反応が若干高く、COD反応ではかなり汚染された水であるとの結果が出ている。

[十勝岳避難小屋周辺の状況]

十勝岳望岳台からの登山者は、国立大雪青年の家研修生などの集団登山も含めて、年間約1万人と推計されている。避難小屋は1968年に建設されているが、トイレは併設されていない。登山コースは、目隠しとなる樹林や小沢もほとんどないため、尿意を我慢しつつ下山を急ぐという例をよく見かける。また、炎天下、トイレへの不安から、水分を控えたために障害が発生したという事例もあり、自然環境保全とは別の意味でもトイレの必要が認められる。

[地元自治体、山岳会の対応]

昨年の9月に、「山のトイレを考える会」と道央・道北勤労者山岳連盟の会員33人が、美瑛富士避難小屋周辺の清掃を実施した。労山の担当の方が美瑛町に来て、関係機関と調整していただいたこともあり、「地元としてできることに取り組もう」と、町の商工観光課と協議を進めた。

まず、美瑛富士登山口入林記録簿から、小屋宿泊者の80%が、オプタテシケ山〜美瑛富士〜美瑛岳〜十勝岳を目標にした1泊程度の行程を組んでいることが分かったので、携帯トイレの携行啓発とともに、小屋の中にも携帯トイレを配備して利用促進を図った。また、白金温泉に専用回収ボックスの設置を検討すること、美瑛富士登山口に簡易トイレを設置することなどを、森林管理署に要望することにしている。

[幌尻山荘のトイレについて]
自然分解では間に合わない

報告者・石森充氏(平取町山岳会) 幌尻山荘のトイレは、山荘内に1カ所、屋外に2カ所ある。収容人員50人の山荘としてはまずまずであろう。便槽は汲み取り式で、水分は地下浸透、固形物を汲み取って埋設している。毎年、汲み取りをしているが、自然分解では間に合わない状態だ。また、昨年10月に、4年前に埋設した固形物の分解状態を調査したが、満足できる状態ではなかった。バクテリアを混入しているのだが、標高960メートルの高所では、地温も低く、分解速度が遅いと思われる。穴を浅くすると、雨水などで流出することも考えられる。これらについて研究の余地がある。

携帯トイレ(便座テントを含む)も用意しているが、事後処理、利用者のマナーなどの問題が課題になっている。理想的にはバイオトイレが必要だろうが、町村で整備するには財政的に厳しい状況だ。

[大雪山登山口でのバイオトイレ試験]
結果は良好 登山者の利用マナーが課題

報告者・荒井修二氏(北海道自然環境課) 試験の目的は、周辺および山上における屎尿散乱の改善に対する有効性の検証、水や電気の確保が困難なところで安価で快適なトイレは何かの検証ということであった。設置場所は大雪山トムラウシ短縮登山口と大雪山沼ノ原登山口である。

(1)大雪山トムラウシ短縮登山口(推定年間入山者数7300人)―オガクズと屎尿を撹拌するモーターと臭気ファンの動力源にソーラー発電を用い、屎尿の分解促進、水分の蒸発促進のための加温に集熱パネルによる給湯加温を用いるトイレを設置した。利用回数は、一昨年が98日間で3002回(オガクズ交換なし、便槽内平均温度33℃)、昨年は117日間で4224回(オガクズ交換なし、便槽内平均温度36℃)。屎尿量の推計はドラム缶で約7本分。

(2)大雪山沼ノ原登山口(推定年間入山者数3000人)―利用者がペダルを漕いでオガクズと屎尿を撹拌する人力式で、臭気ファンは風による自然回転式。利用回数は、一昨年が110日間で1938回(オガクズ交換なし、便槽内平均温度21℃)、昨年は114日間で2554回(オガクズ交換1回、便槽内平均温度17℃)。屎尿量の推計はドラム缶で約4.5本分。

両方のバイオトイレとも、屎尿処理に支障はなく、多くの利用者があったことや、周辺の屎尿散乱も改善されたことから、登山口にトイレを設置することが環境改善に有効な一手法であるとの結果を得た。バイオトイレは臭いもなく快適に利用できて好評だったが、ゴミの投棄などの利用マナーが悪い状況にあり、利用者の意識向上が求められる。


こうした報告の後、参加者が意見交換。そして、いよいよ「いま、美瑛富士避難小屋にトイレを設置するとしたら、あなたはどんなトイレが望ましいと思うか」をテーマに投票をおこなった。結果は表の通りだ。


いま美瑛富士避難小屋にトイレをつくるとしたら
トイレ
の形態
携帯トイレ バイオトイレ 貯留式 浸透式
利点 ・汚さない。
・低コスト。
・どこでもできる。
・維持管理しやすい。
・低コスト。
・管理が楽。
・処理しやすい。
・長持ちする。
欠点 ・隠れる場所が必要。
・におい。
・ゴミになる可能性がある。
・利用しにくい。
・使用後の処理、回収の仕組。
・設置時に費用がかかる。 ・水が必要。
・処理に費用がかかる。
(バキュームなど)
・環境への影響。
投票結果 20人 20人 12人 6人


[写真キャプション]
写真1 黒岳のバイオトイレ
写真2 美瑛富士避難小屋周辺に散乱する使用済みペーパー。昨秋の「トイレデー」で。
写真3 美瑛富士避難小屋。高山植物をとるなの看板はあるが……。
写真4・5・6 大雪山沼ノ原登山口のバイオトイレ。使用後はペダルを漕いでオガクズと屎尿を撹拌する。

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