気象情報の見方と使い方
発生から半日で大荒れの低気圧
野尻英一



前回は、シベリア高気圧の成り立ちのほか、大雪や荒れ模様をもたらす「強い寒気」や「冬型の強さ」を知る気象情報として、富士山頂の気温や名古屋の天気予報を紹介しました。今回は、シベリア高気圧に関連して、冬の低気圧を紹介します。冬の低気圧は特に危険で、入山者の多い年末年始に低気圧が来ると、ほとんどの場合遭難事故が発生しているので、一通りの知識はもっておきましょう。

冬の低気圧の特徴のひとつは、低気圧の発生から山で影響が出るまでの時間が短いこと。

図は、前月号の天気図とその続きですが、28日には低気圧はありませんが、29日朝には日本海の北に1010ヘクトパスカルの低気圧が発生し、急発達ながら東進して30日朝には992ヘクトパスカルになっています。そのため、日本各地で天気が荒れ、秋田では強風で送電線が切れて一部停電になりました。急に現れて短時間に急激に発達し荒れ模様の天気になる、これが冬の低気圧です。

この例では、低気圧は朝鮮半島で発生しましたが、東シナ海や沖縄付近でも同様に低気圧がよく発生します。この場合、低気圧の発生から12時間程度で中部山岳でも影響が出ます。まさに不意打ちです。

そんな冬の低気圧の発生を、地上天気図だけで予測するのはなかなか難しいのですが、方法がないわけではありません。それは、高層天気図で上空の気圧の谷に注意することです。28日の天気図には低気圧はありませんが、高層天気図では気圧の谷があって、その東進に伴って29日に低気圧が発生していることがわかります。

低気圧には上空の気圧の谷が対応しているわけですが、気圧の谷がシベリア大陸の上にあるうちは、地表付近に溜まった冷たく重い空気でできた平屋建てのシベリア高気圧のため、なかなか地上には低気圧が現れませんが、日本海や東シナ海に近づくと低気圧が発生するのです。

年末年始は、朝5時20分から「ラジオたんぱ」で放送される「冬山高層気象」の利用をおすすめします(ことしは12月26日から1月4日まで。高層天気図を作成するためのデータや、上空の気圧の谷や寒気の実況が把握できます)。また、ラジオの天気予報解説にも最低朝晩2回は注意してください。

冬の低気圧は、例外なく発達しながら日本列島を東進しますから絶対に油断禁物。また、北アルプスなど日本海側の山は、低気圧の通過後も冬型気圧配置による雪が続き、天気はすぐに回復しません。ドカ雪で動きが取れなくなったり、万一の場合もすぐには救助活動に入れないことが多いので厳重注意が必要です。(気象予報士)

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