避難小屋のある山を訪ねて No.40 焼石連峰
初めて焼石岳に行ったのは、12年くらい前の2月に、山スキーでのことだった。ツブ沼から銀明水避難小屋に入って1泊、翌日山頂を往復して下山という計画だったが、午後我々が小屋に到着するや、2月だというのに雨が降りはじめ、その後止んだかと思えば強風が吹き荒れる始末。ストーブに薪をくべ、仲間とくつろぐ時間は楽しかったものの、翌朝、山頂に向かうと雪がカリンカリンに凍ってシールが利かない。また空模様も不安だったので、結局諦めて退却した覚えがある。

同じ会の山スキー好きは、その後も真冬の焼石岳に通いつづけていたが、私には長らくそれっきりの山になっていた。 この7月改めて訪れてみて、この山には3つの豊富さがあることに気がついた。残雪、沼沢、そして高山植物である。1500メートル程度に過ぎない標高であることを思えば、これはちょっとした驚きではないだろうか。特に高山植物の点では「花の百名山」にも数えられているが、ベスト8でもおかしくないと思う。

ツブ沼からより距離の短い中沼からの登山者が多いせいだろう。銀明水の広場では急に多くの人と出会う。避難小屋はこの裏の高台にあるが、それは1999年の夏に建て替えられており、私のかすかな記憶にある小屋のイメージとは全く別のものだった。

がっちりしたRC造の高い基礎(床下が倉庫)の上にパネルと木材で建てられ、屋根は赤茶のトタンで緩やかな両流れ。屋根に付いたソーラーバッテリーは無線機の充電用という。重い金属製の引き戸を開けると、やや高い板床だが靴のまま上がれる。正面がトイレだが、男女別だけでなく冬季用も別になっている。というのも、夏季用は沢水を利用した簡易水洗だからだ。また汚水の処理には自然浄化方式を採用しており、トイレットペーパー以外は使用しないでと注意書きが掲示されていた。

右手の奥が居室で、板床の廊下部分で左右に仕切られている。梯子で2階にも上がれるし、合わせると30人程度は利用可能と思われる。廊下の突き当たりが冬季用の出入口になっている。なおこの時は見かけなかったが、冬季のみ、今でもストーブが設置されるとのことだ。

まだ新しく魅力的な小屋ではあったが、天候に不安があり先へと足を伸ばすことにする。ずっと風が強く崩れそうな空模様の下、平らかな山頂を越えて予定とおり金明水避難小屋に到着。ここに泊まることに決め、中に入ってはっとした。これが銀明水の昔の小屋なのだ。さらに言うと、裏岩手の大深山荘とも同じだ。何とも不思議な気持ちにとらわれる。諦めていたものがひょっこり戻ってきた嬉しさといったらいいだろうか。

しかしこの懐かしい「再会」もこれっきりなのだ。なぜならこの小屋は、この夏に建て替えのため取り壊されるからだ。そう張り紙がされている。だから、いまさら小屋の具体的な説明はよそうと思う。
翌朝は、心配していた通り早くから雨が降りはじめた。同宿者たちがすべて出発して行ってから、私も小屋に別れを告げ夏油温泉へと下山を開始した。

堀内 一昭
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